【本】『 タイム・マシン 』感想~人類が幾世代にも渡って最適化した、その先へ。

【本】『 タイム・マシン 』感想~人類が幾世代にも渡って最適化した、その先へ。
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タイム・マシン (創元SF文庫―ウェルズSF傑作集)

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タイム・マシン 作品概要

1895年(創元SF文庫―ウェルズSF傑作集としての刊行 1965年)
原題:The Time Machine
作:H・G・ウェルズ
翻訳:阿部 知二

●創元SF文庫版 収録作品
「塀についたドア」
「奇跡をおこせる男」
「ダイヤモンド製造家」
「イーピヨルニスの島」
「水晶の卵」
「タイム・マシン」

SF映画・アニメを好んで観るうちに、SFの古典として名高いこの作品を読まないまま死んでいくのは如何なものかと思い、手を伸ばした。
何年も小説を読むという行為から離れているところへ、古典の翻訳本ならではの、読みやすいとは言い難い文章に難儀した。
ここで読者に知らせておかねばならぬことだが、「タイム・マシン」に至るまでの短編たちは「面白い…か?」という感じの作品ばかりだが、後に控える「タイム・マシン」のウェルズ文に慣れるための練習問題としては有用である。
(↑こういう文章が多い。「~しておかねばならぬことだが」ということわり文句の数といったら膨大だ)

タイム・マシン

あらすじ

タイム・トラベラーが冬の晩、暖炉を前に語りだしたことは、巧妙な嘘か、それともいまだ覚めやらぬ夢か。「私は80万年後の未来世界から帰ってきた」彼がその世界から持ちかえったのは奇妙な花だった……。
(角川文庫サイトより引用。
創元SF文庫の物ではないが、適当なものが無かったので。)

感想(ネタバレ無し)

あらすじの通り、この作品における時間移動の範囲は数日や数十年ではなく、数十万年単位である。
1900年代から数十万年経ったとき、人間という種族や、物・社会がどうなっているかという点に、関心と描写が寄せられる。
近年みられるような、短期間の目まぐるしいタイムスリップの繰り返しや歴史改変といった展開はみられない。

物語は、タイムマシンにより行き着いた80万年後の世界を、主人公がブラブラしては何かを発見・解釈する形で進んでいく。
その世界には、言葉が通じないが人間に近い風貌の人々が住んでいる。
現代より高度に発展した文明の名残はあるが、全体的に荒廃が進んでいるようだ。
その中で、科学者である主人公が得られた情報から、数十万年の間に起こったことを推察する場面が幾度も挟まれているのは面白かった。
世界に広がる光景やイベントだけで話を進めていくのではなく、人類の進化と社会の発展・荒廃の中で起こったことを、節目節目で想像する。
これによって、描写される世界が異世界ではなく、私達の時代から繋がる1本の歴史の上にあるのだと常に意識することが出来る。

人類が80万年に渡り最適化(※)した果てに広がる世界と生物の様子は、100年以上前のアイディアといえど古さを感じさせない。
(※:個人的な解釈として、「進化」でも「退化」でもなく「最適化」という表現が適しているのかなと思う)
「現代にみられる社会構造が今後も広がっていくのなら、こうなってもおかしくないな」と思わせる説得力には驚いた。
映像作品ではあまりお目にかかれないような内容ということもあり、一読の価値はあると思う。

本作には、100年越しに書かれた続編「タイム・シップ」がある。
作者はH・G・ウェルズではなくスティーヴン・バクスターだが、ウェルズの遺族公認で制作・刊行したとのことだ。
「タイム・マシン」のすぐ後から始まる物語で、スケールの大きさが尋常ではなく圧倒されまくったので、近々感想を書く。
「タイム・マシン」自体も映画化されており、2002年版のものを観たのだが、わりとお粗末だった。これも感想を近々。

「タイム・マシン」の感想について、ネタバレありのセクションを記事の終わりに追記しておく。
よかったらご覧ください。

「タイム・マシン」以外の収録作品 感想

各々、簡単にコメントだけ残しておく。

塀についたドア

大切なものを忘れないでいられるチャンスとか、人生における大きな選択といったもの。
それはいつもノリにノッてる時、「今はやめてよ!集中させて!!」というタイミングに訪れるものだ。
確かに人生にはそういう原則みたいなものがあって、それを描いてるフシもあるし、単に「モルダー、あなた疲れてるのよ」的な話にも見える。
短編集のトップランナーとするには、ちょっと掴みどころの難しい作品だった。

奇跡をおこせる男

「塀についたドア」から一転、お馴染みの超能力モノでストーリーも明快で面白い。
奇跡を起こした時点で物理法則は無視されるものだが、ちょっとした物理現象の見落としでエラいことになる場面は笑った。
この話に限らず、ちょっとした一文で、この出来事は読者が住む世界で本当に起こったことだと思わせるテクニックも面白い。
ラストは無限ループなのか?と一瞬思わせるが、読者の住む世界は無事に2000年代に突入しているので、ループはしていないのだろうと思う。

ダイヤモンド製造家

「こんなやつが居たんだよね。言ってたことが本当だったらすごいんだけどさ。結局どうなったんだろうね」で済む話。

イーピヨルニスの島

ドラえもんの普段の放送でやってそうな小噺。

水晶の卵

色々とノイズが多い物語ではあるが、未知のものについてワクワクする心をくすぐる作りになっている。
同じ作者の他作品と同じものが出てくるが、関連はしているのだろうか。

「タイム・マシン」感想(ネタバレあり)

ネタバレなしのセクションで書ききれなかった内容を少し。

搾取する側とされる側を住む場所からして明確に分ける構図は、フィクションの作品において一般的だ。
しかし、搾取する側・される側に二分された人類が数十万年に渡り最適化した末、容姿や身体機能に大きな違いが現れるというのは面白い。
(最適化と簡単に言っているが、生物が進化の過程で獲得する形質がどう選択されるのかという問いには複雑な議論があったはずだ。
自然選択説とか、何とか……(不勉強))

そして最適化が行き過ぎた結果、二種の新人類の立場は逆転する。
搾取されてきた側の人類が、搾取してきた側の人類を畜産し、収穫・捕食するというショッキングな社会構造。
しかしその構造さえも維持する知能がなくなり、後は滅びに向かう一方だという救いの無さ。
「タイム・マシン」が世に出た時代の読者が、この作品を受け取ってどう思ったのか、気になるところだ。
そもそも、その時代における「搾取される側」の人々が、本というものを気軽に入手出来たのだろうか。(不勉強)
色々と、知らないことを勉強するタネを与えてくれる小説だ。
そういえば、科学技術の発展と社会の成熟の果てに「考えなくていい社会」を実現した結果、全体として滅びに向かってゆくという描写はレイ・ブラッドペリ著「華氏451度」の舞台作品でもみられたものだ。
こちらも着眼点が良くて面白かったので、また感想を書く。→書きました。

あと、ひとつだけ。
私が読んだ創元SF文庫版には挿絵が無く、モーロックならびに、もっと未来に現れた触手つきの肉塊について、私の脳内ではかなりグロテスクな造形となっているので描いた。
「タイムマシン モーロック」とかでGoogle画像検索かけてコレが出て来たら、なんかごめんなさい。

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以上。
ほな、また。

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