アポロ11 完全版
アポロ11 完全版 作品概要
2019年 アメリカ
原題:Apollo 11
監督:トッド・ダグラス・ミラー
キャスト(本人):
ニール・アームストロング
バズ・オルドリン
マイケル・コリンズ
アポロ11号の月面着陸50年周年を機に、新たに発掘された映像と音声でアポロ11号の9日間を描いたドキュメンタリー。月面着陸50周年を記念し、アメリカ公文書記録管理局(NARA)やNASAなどの協力により、新たに発掘された70ミリフィルムのアーカイブ映像や、1万1000時間以上におよぶ音声データなどをもとに製作。ナレーションやインタビューは加えず、4Kリマスターによって美しくよみがえった圧倒的な映像と音声のみで構成。打ち上げ管制センターの様子や宇宙飛行士たちが宇宙服を着用していく姿、そしてミッション完了後の回収船など、当時、全世界で5億人が見守ったとされる、人類史に刻まれた歴史的な瞬間を追体験することができる。
(映画.comより引用)
タイトルに「完全版」とついているのは、科学館や博物館にて上映されるファースト・ステップ版(短縮版)に対して区別するための文言。
総評
評価:
人類が初めて月に行って帰還するまでの大仕事。これを映し出す本物の映像に、息を呑みっぱなしの贅沢な90分だった。
ドキュメンタリーではあるがナレーションは無く、CGの使用も簡易なイラスト程度に留まっている。このため、偉人たちの仕事ぶりや、宇宙から見た地球・月の映像に集中出来る。
「50年前、NASAがめっちゃ頑張って人を月にやったらしい」程度の予備知識でも、十分に凄みが伝わってくるものとなっていた。
感想
アポロ11号が月に行った件について、陰謀論云々は脇に置いておく。
あと、この手の映画にネタバレも何も無いと思うので、以下わりと細かい話も遠慮無く書いている。
童心も大人の心も大満足
幼少期の私は、宇宙の図鑑1を度々眺めては、太陽の何十億倍などと平気で書いているスケールのデカさに魅了された少年だった。
かつて図鑑が本の形を成さなくなるまでこれを読みまくった我が童心は、本作の本物感に大満足であったようだ。
また同時に、いまシステムエンジニアとしてのキャリアを積んでいる私の大人心もまた、感服したものだ。
人が作ったシステムが、きっちり動くべき時に不具合無く完璧に動くというのは、本当に難しい。
それを50年も前に、我々が使っているコンピュータとは比較にならないほど非力な計算機でプログラムを組み、巨大なロケットを作り上げて飛ばした上に、月からサンプルを持ち帰った人々の偉業には、まったく恐れ入る。
劇中ではしきりに「この偉業が人類の平和に…」とコメントされる。
宇宙旅行はまさに人類の夢であるが、月に数人のアストロノーツが行ったからといって、突然その日から人類が一致団結したり、世界が平和になったりすることは無いだろう。
それでも、何かを明らかにしたいという好奇心と、もっと宇宙の遠くまで人の手足を伸ばしたいという夢に、莫大な費用と優秀な人々の能力が注ぎ込まれる時代であってほしい。
表面的に役立つとわかるものばかりにリソースが充てられる世の中だからこそ、そう思える一作品であった。
古さを感じさせず、臨場感の溢れるドキュメンタリー
圧倒的な本物感
世の中のSF超大作に比べれば当然、地味であった。しかし、本物であった。
宇宙服を着る間のアストロノーツが見せる表情。
ロケットが飛ぶまでの時間をバーベキューして時間を潰す一般客。
エレベーターでロケットの先端に上がっていく間に映され続ける、ロケットの巨体。
各部門長から矢継ぎ早に告げられる数十ものゴーサイン。
フィクションではないという一点だけで、随分凄みが増すものだ。
映像は素人目に見ても保存状態が良く、古臭さもノイズもほとんど感じなかった。
宇宙に出てからの映像は、月や地球、宇宙船体以外は真っ暗となり、宇宙に広がる星々は見えない。
これは明るい物体にカメラの露出を合わせる都合によるのだろうか。
近年の撮影技術ならこれを映し切ることが可能かと思ったが、以下2018年にJAXAが公開した映像を見ると、ほとんどの場面で本作同様に、地球の周囲に広がる宇宙の星々まではみられない。
やはり、宇宙に出た者が直に観ないと感じられない光景が、そこにはあるのだろう。
月の表面。恐ろしさで鼓動が高鳴る瞬間
本作で印象的だったシーンはたくさんあるが、ここでは怖くてドキドキしたという意味で、月の表面近くで描かれた2つのシーンについて取り上げたい。
月の裏側
まずは、月の裏側とでも言おうか、日の当たらない月の上空を飛ぶ時の、なんとも言えない恐ろしさ。
足を踏み入れる者には容赦しないというような怖さ、人類を歓迎してはいないような厳しさが、暗く冷たい月の様子から感じられた。
月に着陸する際のシステムエラー
次に、月への着陸シークエンスの最中、システムエラーが発生した瞬間も恐ろしかった。
宇宙船の進む速度が予定よりも少し速く、燃料もギリギリという状況で、システムエラーが発生する。エラーコード:1202。
宇宙飛行士はこの意味を本部に問い合せる。
1202とは何か。このまま着陸しても良いのか。
少し間があって「オーバーフローだ。問題無い」と返す本部。
直後にまたシステムエラー。同じ番号だ。本当に大丈夫なのか?
着陸間際には別のエラーコードまで出ている。
結果的にアポロ11号は月に着陸出来たのだから、50年経ってスクリーンで見返す分には何のドキドキ感も無いはずなのに。それでも1歩間違えれば月に激突しようかというタイミングで、アラート音に成すすべも無いまま着陸する状況を観るのは、居心地が悪かった。
月面上のシーンは淡々と。生還までの工程は丁寧に。
月に降り立った瞬間、かの有名な「人間にとっては小さな一歩だが、 人類にとっては大きな飛躍である」とアームストロング氏。
(原文のmanにaがあるべきとか文法がどうとかで、わりとめんどくさいタイプの論争があるようだ。ここではスルーする)
映されるのはアームストロング氏の上から撮影した記録映像なので、着地の瞬間に特別な音楽が鳴ったり、足元にカメラが寄ったりはしない。
淡々と、次の仕事にかかるためのステップとしてその工程はあるのだ。
「ワオ!これが月か!やったぜ!!!」とか叫ばないあたり、頭の良い人は違う。
月面の石を採取したり、地震計を置いたり、アメリカの国旗を立てたり(重要)といった仕事の内容が映し出された後、地球に帰還する工程に移る。
帰途は月に行く時ほどじっくりではないが、抑えるところは抑え、ドキドキ感を保った良い構成だった。
あとがき
そういえば、同じくアポロ11号を取り扱った映画「ファースト・マン」と、昔よくロードショーでやっていた「アポロ13」はまさかの未履修だった。
近々、観てみようと思う。
なお、本作の価値について、制作陣により語られたコメントを以下の動画から見られる。
以上。
ほな、また。
- おそらく、小学館ではなく学研から発行された図鑑だったと思う。 ↩
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