【舞台】『 ハムレット (ジョン・ケアード演出 内野聖陽主演) 』感想~無数の「なんでそうなるんや!」で編み上げられた悲劇

日記

ハムレット (ジョン・ケアード演出 内野聖陽主演)

あまりハムレット感の無いポスター

感想

話はいつものハムレット、のはず。誰も幸せにならない!

400年から前に書かれて親しみ続けられているシェイクスピア大先生のハムレットを挙げておいて、今更ストーリーの感想もネタバレも無いのだとは思う。事前に予習をしておけと同行人から渡されていた本は、戯曲を活字で読むのは何ともコレジャナイ感じがして我慢ならず、冒頭28ページのみ読了。観劇に影響は無く、話はすんなりと理解出来た。

しかし何とも、悲劇である。誰も居なくなった後に王座ポジションにおさまったフォーティンブラス以外は、誰も幸せにならない。

ハムレット王子およびクローディアス王はそれなりに自業自得感はあるだろう。一方、本当にただ巻き込まれただけのオフィーリアとレアティーズなどは可哀想と言うほかない。偉い人の言う通りにしただけのギルデンスターンとローゼンクランツなどは「アイツら気に入らねぇから死んでもらうことにした」レベルで、しかも「アイツら死んだらしいよ〜」なノリで舞台の外で退場させられるという扱いの酷さ。
(死んでもらうことにした時のハムレット(内野聖陽)の悪そうな顔!)

「○○がもうちょっと○○していれば、こんなことにはならなかった」が全編にわたって散りばめられていて、えらいことです。ホレイショーだけは全編通して常識人で、彼が助かったのはシェイクスピア大先生の良心なのかといえばそうでもなく、あれだけの悲劇を全部背負い語り継いでいく大役を負わされて生きる羽目になったからやはり鬼畜。PTSDにならないわけがない。

観終わったところで「ストーリーが感動的だったねぇ!」などとはなるはずもない。けれども、無数の「なんでそうなるんや!」で編み上げられたこの悲劇を、豪華な役者さん達が集って全力で演じる贅沢な時間と光景を作り続けるためにも、今より更にもう400年ぐらい残っていても良い作品だと思った。

主人公属性を持ちつつも主人公になれなかった男

最終盤に登場人物ほぼ全滅の勢いで死の宴が繰り広げられた直後、誰も居なくなった王座に腰を降ろした隣国の王子フォーティンブラスは「一体ここで何があったらこうなるわけ?」と、唯一の生き残りホレイショーに事の経緯を説明させる。

傍から見ればタナボタ的な感じで自らの敵国の王座を手に入れたフォーティンブラスは「良い思いをしている」と捉えられるだろう。しかしながら彼は彼で、悲劇的な境遇にあると思わざるを得ない。なぜなら、ハムレットより主人公っぽい要素が揃っているのに、主人公じゃないからだ。

フォーティンブラスはハムレットと同様に王たる父を亡くした身であり、恨むべき相手が居る点で境遇は似ている。ところがハムレットが述べる通り、どう見てもフォーティンブラスの方がハムレットよりも前向きであり、力強く、行動力に満ちている。兵をかき集めて隣国に攻め入る様は、身内1人殺すのに延々ウジウジしていたハムレットよりも、よっぽど主人公らしい。しかし考えてみれば分かることだが、そんないかにもありふれた主人公がバカ正直にありふれた主人公をやったって、作品が数百年も残ったりしないのだ。

仮に同じ物語でフォーティンブラスが主人公であったとして、最大の見せ場となるはずの隣国王襲撃の場面を想像してみよう。「血気盛んに王の間に攻め入ったら、既に敵が皆勝手に争いあって死んでいた」というのでは、話の盛り上げようがない。奇跡体験アンビリバボー的な特集だったら「王の間に踏み込む前に一体何があったのか。物語は数か月前に遡る。デンマーク某所……」と、やはりハムレットを主人公とした物語が本編として始まってしまうだろう。ハムレットを取り巻くシチュエーションが強烈過ぎて、フォーティンブラスはどうあがいても主人公にはなれそうにない。

そのほかのこと。

今回の演出・演者さんならではの要素も書かねばならない。第一印象として、シェイクスピアのわりには非常に親しみやすい作品になったと思う。

悲劇の歯車が本格的に回り出す前に見せる各人の演技は非常に柔らかく温和で親しみやすく、「シェイクスピアって難しそう」との不安を取り払うには十分な導入となっていた。後に描かれる悲劇さえ無ければ皆幸せに暮らせていたのだ、という印象を強める効果もあったように思う。笑いを誘うようなコメディタッチな場面を作ることに頼らず、演じる役の素の性格を見せてそれをやっている点が真面目だ。

國村隼さんが演じたクローディアス王は悪役でありながらも、ガートルードへの愛情の示し方やレアティーズの可愛がり方などを見ると「なんだこの人良い人じゃん」とまで思える。如何にも悪役という演じ方では生まれない「こんな人が何故実の兄を殺すに至ったのか」を想像する余地みたいなものが生じて面白い。

主人公ハムレットを演じた内野聖陽さんはセリフの量が尋常でないながらも見事に演じきり、それだけで凄い。内野さん自身が醸し出す力強さと迫力もあって、前半のナヨナヨ状態なハムレットには合ってないような気はしたが、迷いを捨てた後の「やれば出来る強いハムレット」のピッタリ感はさすが。加藤和樹さん演じるレアティーズとの決闘シーンもハイスピードなアクション満載で凄まじかった。

ホレイショーを演じた北村有起哉さん以外は、皆1人2役を担っていた。それぞれ受け持つ2つの役が鏡写しのようにになっていたり、死んだ後に別の人間として墓から出てきたりと、組み合わせが面白くて見応えがあった。トータル10分も出ないようなフォーティンブラスの役どころは、出番が少ない割に主役と同等以上の力強さを表現せねばならないが、それをハムレットを演じる内野聖陽さんにやらせてクリアしてしまうあたり、上手いことやったなぁと。


舞台観劇は学生時代に学校の行事?で行ったもの以来だったが、やはり良い。映画では味わえない生のエネルギーの奔流みたいな物がグッとくる。あまりリーズナブルな趣味ではないが、定期的に舞台観劇楽しみたい。

以上。
ほな、また。

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