評価
感想
東日本大震災の記憶を思い出す重要なスイッチのひとつとして、今後十分に役割を果たしていける作品だと思う。原発事故の渦中に内部で起きていたことが中心に描かれるけど、そこから原発の外、日本じゅうを巻き込んで社会を一変させた震災に関わる他の記憶も、呼び起こされるんだよね。
震災を経験した観客の多くは、かつて恐れ戦いた記憶に普段は蓋をしていても、肌は当時の恐れや不安を覚えていて、暗い場所で津波や福島原発の光景を見せられれば身体が震えることに気づくだろう。大きな災害を経験した世代と、その後から生まれた世代との違いは、そういう「震え」をもたらす肌感覚・本能的な記憶の有無によるんだろうな。
扱ってるテーマと前半の脚本は良いのだけど、映画の作りは決して上手くない。アンフェアな描写やヒロイックな誇張がミスマッチでNG。音楽の使い方やカメラの動きにも、所々ダサくて現実に引き戻されるような無駄な工夫が入っていて萎える。俳優陣は期待通りの名演を魅せてくれていて引き締まった画が続くので、小手先のテクニックで無理矢理盛り上げようとしているのがノイズにしか感じられなかった。
あと、映画の締めとしてのクライマックスは用意されてなくて尻切れトンボ気味だけど、まぁ題材を考えれば、そこはしょうがない。
エネルギー源としての原発是非など、映画で取り扱うに際して後ろめたい部分は徹底して触れず守りに入ってるので、本作だけを観て当時の全体像や真実が現実に即した形で分かるような代物ではないね。他のインプットを通して、原発事故に対する認識のバランスをとっておきたいところ。
同じ原発事故をある程度俯瞰的に復習出来る映画「太陽の蓋」や、頭カラっぽスリラーの皮を被って原発の後ろめたい部分を突きつけた「天空の蜂」などと併せて鑑賞すると、事故や原発の全体像と現場の壮絶さを共に理解出来てバランスが良いね。
以上。
ほな、また。
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